特定の株主からの自己株式の取得についてお悩みではございませんか
会社法では特定の株主の方にのみ売却の機会をあたえて自己株式を取得する方法も定められています(会社法第160条)。
特定の株主の方からの取得は、株主間の平等を損なう恐れがある、経営陣が反対派の株主などから高値で株式を買い取り自己の支配強化につなげる恐れがある、といった理由から厳格な手続きが定められています。
今回は、そんな特定の株主の方からの自己株式の取得について記載いたします。
特定の株主の方からの自己株式の取得は、会社法156条~会社法159条に定める合意による株主からの自己株式の取得(ミニ公開買付)の売却の機会を特定の株主にのみ与える制度
特定の株主の方からの自己株式の取得は、会社法156条~159条に定める合意による株主からの自己株式の取得(ミニ公開買付)の売却の機会を特定株主にのみ与える制度です。
まずは、会社法156条~159条に定める合意による株主からの自己株式の取得(ミニ公開買付)の手続きの流れを簡単に記載します。
会社法156条~159条に定める合意による株主からの自己株式の取得(ミニ公開買付)は、次のような流れですべての株主(種類株式発行会社の場合は、取得する株式の種類のすべての種類株主)に会社への譲渡しの申込の機会を与えるものです。
①株主総会決議(会社法156条)
取得する株式の数と対価の総額の上限、期間を定めます。
(この決議に基づく取得が可能な期間は、1年を超えることはできない)
②取締役会決議(会社法157条)
①の株主総会決議により授権された範囲内で、具体的な取得株数、1株当たりの対価、申込の期日等を定めます。
※取締役会非設置会社での決議機関については、取締役の決定で足りるとする説と、株主総会決議が必要とする説があります。
③株主に対する通知又は公告(会社法158条1項)
すべての株主(種類株式発行会社の場合は、取得する種類株式のすべて種類株主)に対して②で決議した事項(会社法157条1項各号に掲げる事項)を通知します。
※公開会社においては、公告をもってこれに代えることができます(会社法158条2
項)。
④株主からの申込(会社法159条1項)
株式の譲渡しを希望する株主は、譲渡したい株式数(種類株式発行会社の場合は株式の種類及び数)を明らかにして申込をします。
申込まれた株式について、申込期日に自己株式取得が成立します。
※②の取締役会決議で定めた取得総数を上回る申し込みがあった場合は、比例按分になります。
会社法160条による特定の株主からの自己株式の取得は、特定の株主にのみ売却の機会をあたえることを株主総会で決議する
会社法160条による特定の株主からの自己株式の取得は、最初から特定の株主の方からだけ自己株式の取得を行うことを目的として行います。そこで①の株主総会の段階で、特定の株主を指定して、その株主からのみ自己株式の取得を行う前提で株主総会の決議を行います。
この決議は、株主総会の特別決議が必要となります。
※この株主総会決議において、その特定の株主は特別利害関係人に該当し、議決権を行使することは出来ませんし、定足数にも算定されません(会社法160条4項)。
ただし、特定の株主以外の株主の全部が株主総会において議決権を行使することができない場合は、例外的に特定の株主が議決権を行使できます(会社法160条4項ただし書き)。
特定の株主以外の株主は、自分も特定の株主に加えるように請求することができる
特定の株主のみをターゲットに自己株式の取得の行うことになるので、その他の株主の保護のために、他の株主は特定の株主に自己を加えたものを株主総会の議案とすることを会社に請求することができると定められています。(会社法160条3項)。
これを、売主追加請求権と呼びます。
※こちらの売主追加請求権は、定款で定めれば排除できるとされています(会社法164条)。
定款に定める場合含め、次のような場合も売主追加請求権を排除できるとされています。
(ⅰ)市場価格のある株式の市場価格以下での取得の場合
(会社法161条、会社法施行規則30条)
(ⅱ)非公開会社における相続人等からの取得の場合(会社法162条)
(ⅲ)子会社からの自己株式の取得の場合(会社法163条)
(ⅳ)定款に売主追加請求権の排除を定めた場合(会社法164条)
この売主追加請求権は、株主総会の議案に自分も特定株主として追加することを請求できる権利ですから、株主総会開催の原則5日前までに請求することができます。
自己株式を取得しようとする会社は、この売主追加請求の権利があることを原則加主総会の2週間前までに株主に通知する必要がありますので、株主総会の招集の際には招集通知の発送の時期や内容に注意が必要です。
(通常は、この通知は招集通知と兼用で行われます。)
会社法160条による特定の株主からの自己株式の取得の手続の流れ
会社法160条による特定の株主からの自己株式の取得の手続の流れは、次のようになります。
Ⅰ 株主への売渡請求が可能である旨の通知(会社法160条2項、会社法施行規則28条)
原則として2週間前までに通知をする必要がありますが、通常株主総会の招集通知と併せて行われることが多いため、通知期間については次のように定められています。
・原則:株主総会の日の2週間前まで
・招集通知を発すべき時が1週間以上2週間未満の期間前である場合:
当該通知を発すべき時まで
・招集通知を発すべき時が1週間未満の期間前である場合または招集手続きを省略する場合
株主総会の1週間前まで
前述したとおり、通常株主総会の招集通知と併せて行われることが多いため、株主総会の招集通知の発送の時期と連動するようになっていますが、最短で1週間前までにしか短縮されないこと、招集手続きを省略する場合でも会社法160条2項の通知は必要であること、株主総会招集通知は期限までに発送すれば足りる(会社法299条1項)が会社法160条2項の通知は期限までに通知が到達する必要があること(民法97条1項)に注意が必要です。
Ⅱ 株主からの売主追加請求
特定株主以外の株主(種類株式発行会社の場合は、取得する株式の種類の他の種類株主)は、原則として株主総会の日の5日前まで(招集通知を発すべき時が2週間未満の期間前である場合又は招集手続を省略できる場合は3日前までとされています。)に、特定株主に自己を加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる(会社法160条3項、会社法施行規則29条)。
Ⅲ 株主総会決議(ミニ公開買付の場合の①に対応)
会社法160条による特定の株主からの合意による自己株式の取得の場合には、特別決議によって次の事項を決議します。
(ⅰ)取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては株式の種類および種類ごとの数)
(ⅱ)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容およびその総額
(ⅲ)株式を取得することができる期間(1年を超えることはできない)
(ⅳ)特定の株主から取得する旨
ⅳ 取締役会決議(ミニ公開買付の場合の②に対応)
取締役会決議によって、さらに次の事項を決議します。
(ⅰ)取得する株式の数
(種類株式発行会社にあっては株式の種類および数)
(ⅱ)株式1株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法
(ⅲ)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額
(ⅳ)株式の譲渡しの申込みの期日
※取締役会非設置会社においては、会社法348条1項、2項の業務執行行為の一種として取締役の決定で決議できるとする説と、剰余金の配当等に関する規定の仕方から株主総会で決議すべきであるとする説があります。
Ⅴ 株主に対する通知(ミニ公開買付の場合の③に対応)
会社法160条による特定の株主からの合意による自己株式の取得の場合では、特定株主にのみ通知を行えば足ります(会社法160条5項)。
Ⅵ 特定株主からの株式譲渡し申込(ミニ公開買付の場合の④に対応)
特定株主から申込があれば、自動的に会社が承諾したものとみなされて、売買が成立します。
特定株主からの自己株式の取得は手続きにご注意ください
特定株主からの自己株式の取得は、かなり手続きが厳格に定められています。
特定株主からの自己株式の取得をご検討の方は、必要な手続きを実施いただくようご注意ください。
ご参考にしていただけますと幸いです。