役員等の責任を免除する規定についての登記についてお困りではございませんか
会社法では、役員等の責任の全部または一部を免除する規定が設けられています。
優秀な取締役の人材の確保し萎縮せずに経営をしていただくために、このような責任の免除に関する規定を設けている株式会社も多くございます。
役員等の責任の免除に関する規定は、定款の定めが必要であるもの、特定の機関設計である必要があるもの、そして登記が必要となるものがございます。
今回は、役員等の責任の免除に関する規定と登記について記載いたします。
免除の対象となる役員等の責任とは任務懈怠責任
役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人)は、その任務を怠ったときは、生じた損害を会社に対して賠償する義務を負うとされています(会社法423条1項)。
役員等は専門家として会社から経営などの委任を受けていますので、その職務について高度な注意義務(善管注意義務)などの義務を負っていると解されています。
そのような義務に違反するような職務遂行があった場合には、任務を懈怠したものとされ、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
これが、任務懈怠責任になります。
具体的な事案は多種多様ですが、経営判断の誤りなどによっても任務懈怠責任を追及される可能性があります。
それだけ、役員等になると大きな責任を負うということになります。
役員等の任務懈怠責任の免除には原則として総株主の同意が必要
役員等の任務懈怠責任を免除するには、原則として総株主の同意が必要になります(会社法424条)。
会社の所有者である株主全員が同意しているのであれば、役員等の会社に対する任務懈怠責任を免除してもよいという趣旨になります。
この方法による免除は、定款の定めは不要ですし、登記事項とはなりません。
※役員等の責任を免除する株式会社に最終完全親会社等がある場合には、その最終完全親会社等の総株主の同意も必要となります(会社法847条の3)。
適格旧株主がある場合には、適格旧株主の全員の同意も必要となります(会社法847条の2)。
総株主の同意は上場会社などの大規模な会社では難しく責任の一部免除に関する規定が設けられている
この総株主の同意は要件としては厳しく、株主の人数が多く流動的な上場会社などでは要件を満たすことはかなり難しいです。
これによって特に上場会社などの大規模な会社において役員等が委縮してしまったり、優秀な人材が役員等になることに二の足を踏んでしまったりすることにつながりかねません。
そのため、会社法では総株主の同意による他に、この任務懈怠責任の一部免除に関する規定がいくつか設けられています。
※総株主の同意は得られずとも、一定の要件を満たすことで任務懈怠責任を免除することになるため、全部ではなく会社法の定める最低責任限度額までを限度とする一部免除とされています。
株主総会の特別決議による一部免除
役員等の任務懈怠責任は、株主総会特別決議によって一部免除することができるとされています(会社法425条)。
総株主の同意よりは緩和した要件(特別決議)で、株主からの役員への責任一部免除を認めているということです。
株主の人数が多く流動的な上場会社などでは総株主の同意に比べれば、特別決議なら必要な賛成が得られる可能性は現実的なものと考えられます。
(もちろん実際に可決できるかどうかは個別具体的な状況によります。)
この株主総会の特別決議による一部免除についても、特に定款の定めは不要ですし、登記事項にもなりません。
なお、監査役設置会社では、取締役が取締役の責任免除についての議案を株主総会に提出するには各監査役の同意が必要とされています(会社法425条3項1号)。
※監査等委員会設置会社においては、監査委員でない取締役の責任免除についての議案を株主総会に提出するには、各監査等委員の同意が必要です(会社法425条3項2号)。
※指名委員会等設置会社においては、監査委員でない取締役または執行役の責任免除についての議案を株主総会に提出するには各監査委員の同意が必要です(会社法425条3項3号)。
※役員等の責任を免除する株式会社に最終完全親会社等がある場合には、その最終完全親会社等の株主総会決議も必要となります(会社法425条1項)。
取締役会決議(または取締役の過半数同意)による一部免除
取締役会の決議(取締役会を設置していない会社では取締役の過半数同意)によって、役員等の責任を一部免除する制度もあります。
責任の一部免除の範囲は、株主総会特別決議の場合と同じ会社法の定める最低責任限度額までが限度になります。
この取締役会の決議(取締役会を設置していない会社では取締役の過半数同意)の責任の一部免除を行うためには、定款の定めが必要になります。
この制度には機関設計にも要件がございます。
監査役設置会社であり、取締役会を置いていない場合でも取締役が2名以上いることが求められます。
※このほかに、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社でも可能です。
また、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定している場合には、取締役会の決議(取締役会を設置していない会社では取締役の過半数同意)の責任の一部免除をすることができないとされていますので注意が必要です。
※会計限定の定めがある場合、会社法2条9号の監査役設置会社に該当しなくなるためです。
そして、この取締役会の決議(取締役会を設置していない会社では取締役の過半数同意)による役員等の責任の一部免除については登記事項とされています。
監査役設置会社、監査等委員会設置会社または指名委員会設置会社の登記がされていなかったり、監査役会設置会社であっても会計限定の定めが登記されていたり、取締役が2名以上登記されていなかったりする状態では、取締役会の決議(取締役会を設置していない会社では取締役の過半数同意)による役員等の責任の一部免除の定めの登記は受理されないので、注意が必要です。
責任限定契約による責任の一部免除
会社は、業務執行取締役等ではない取締役、会計参与、監査役または会計監査人との間で、任務懈怠責任の範囲を限定する責任限定契約を締結することができます。
あらかじめ、責任の範囲を限定する契約をすることを認め、役員等の人材確保をしやすくすることなどを目的とする制度です。
※責任の限定の限度は、定款であらかじめ定めた額か会社法の定める最低責任限度額のいずれか高い方になります。
この責任限定契約の締結にも、定款の定めが必要であり、責任限定契約の定めは登記事項になります。
※特に機関設計についての要件はありません。
以前は、責任限定契約を締結できる取締役または監査役が、社外取締役または社外監査役とされていましたが、平成26年の会社法改正で業務執行を行わない取締役や監査役は、社外性の要件を満たさなくても責任限定契約の締結が可能となりました。
これに伴い、責任限定契約についての定めが登記されていても、社外取締役や社外監査役は登記事項ではなくなりました。
役員等の責任の免除に関する規定は要件や登記事項となるかを確認ください
役員等の責任の免除に関する規定は、それぞれ定款の定めや機関設計などの要件が異なり、登記事項となるかどうかも異なります。
登記手続きにあたっては機関設計に関する登記事項との整合性の確認が必要なものもありますので、よくご確認いただくことが大切です。
ご参考にしていただけますと幸いです。