特例有限会社から通常の株式会社へ移行するための商号変更による設立の登記についてお悩みではございませんか
有限会社については会社法への改正に伴い、新たに設立することはできなくなりましたが、既存の有限会社については特例有限会社として現在も商号中に「有限会社」との文言を使用して存続しています。
このように、特例有限会社は登記手続き上も●●有限会社といった商号で登記されていますが、これを「株式会社」との文言を使用する商号に変更することで、通常の株式会社へ移行することができます。
この通常の株式会社への移行は、定款変更によって通常の株式会社へ会社の形態が移行する手続きですので、法人格としては同一の法人という事になります。
ところが、登記としては新たな株式会社の設立登記と有限会社の解散登記を行うことになります。
これは、会社の形態の移行に伴い、有限会社としての登記簿を閉鎖し株式会社としての新たな登記簿を創設する必要があるためです。
今回は、特例有限会社から通常の株式会社へ移行するための商号変更による設立登記について記載いたします。
株式会社との文言をつかう商号に変更する定款変更を行うことで通常の株式会社へ移行する
特例有限会社から通常の株式会社へ移行するためには、商号中に「株式会社」との文言を使用する定款変更を行う株主総会決議をすることによって行います(会社整備法45条1項)。
※特例有限会社では株主総会特別決議の要件に注意が必要です。
特例有限会社の株主総会特別決議の要件は、通常の株式会社と異なり、「総株主(頭数)の半数以上(定款で加重することも可能)であって、当該株主の議決権の4分の3以上の多数」とされています(会社整備法14条3項)。
そして、商号変更による通常の株式会社への移行は、その登記をすることによって効力を生じます(会社整備法45条2項)。
商号変更による通常の株式会社の設立登記と特例有限会社の解散登記を申請する
商号変更による特例有限会社から通常の株式会社への移行は、定款を変更することで会社の形態を変更する手続きですので、法人格自体は同一性を保っているということになります。
ところが、登記手続きとしては、商号変更による通常の株式会社の設立登記と特例有限会社の解散登記を申請することになります。
これは、特例有限会社から通常の株式会社への移行にともない、その登記事項など登記簿の構造が変わるため、特例有限会社の登記簿を閉鎖し、新たに通常の株式会社としての登記簿を創設する必要があるためになります。
特例有限会社から通常の株式会社への移行に伴い役員の任期が満了することになる場合がある
特例有限会社では取締役と監査役の任期に上限がありません(会社整備法18条による会社法332条および会社法336条の適用除外)。
そのため役員が就任した日から長期間が経過していることもあります。
一方、通常の株式会社の取締役および監査役の任期は、最長でも「選任後10年以内に終了する最終の事業年度に関する定時総会の終結の時まで」になります。
そのため、特例有限会社から通常の株式会社へ移行するのと同時に、移行後の通常の株式会社の定款で定める任期に関する規定が適用されることとなり、任期が満了することになる役員がいる場合が多いです。
このように任期が満了することとなる役員がいる場合で、その役員に引き続き職務を行っていただく場合には、その役員の選任決議も併せて行う必要がある点に注意が必要です。
特例有限会社から通常の株式会社への移行の登記と同時にその他の登記事項を変更する場合
原則として、(後述の例外を除いて)特例有限会社から通常の株式会社への移行の登記と併せて、その他の登記事項の変更についての登記申請も、効力発生日が同じであれば、その登記を申請できるとされています。
ここで効力発生日が同じとは、特例有限会社から通常の株式会社への移行の登記はその登記の申請日ですから、その他の登記事項の変更についても移行の登記の申請日に効力が発生している状態のことを指しています。
このような、特例有限会社から通常の株式会社への移行の登記と同時にするその他の登記事項の変更については、移行後の通常の株式会社の設立登記の登記申請書に直接変更後の登記事項を記載する方法によって行うことになります。
このように、通常の株式会社への移行と同時にするその他の登記事項に関する登記は、移行による株式会社の設立登記によって創設される新しい登記簿に直接記載されることになるため、例えば辞任する役員の辞任の登記などは記録されず、その変更の経歴を確認するには閉鎖された特例有限会社の登記簿と対比することによってしか確認できないため注意が必要です。
本店移転の登記は同時に申請することができないとされている
通常の株式会社への移行の登記と同時に、本店移転の登記を行うことはできないとされているため注意が必要です。
これは、移行後の株式会社の登記簿に直接本店移転後の本店を登記してしまうと、移行前の特例有限会社の登記簿に記載されている本店と異なってしまうため、特例有限会社の閉鎖された登記簿を探すことができなくなってしまうためです。
※支店設置(ある支店所在地の管轄で初めてするもの)や支店廃止(ある支店所在地の管轄において営業所が存在しなくなるもの)の登記も同時にすることができないとされていましたが、支店所在地における登記の制度の廃止により、これらは同時に行うことが可能になっていると考えます。
特例有限会社の商号変更による通常の株式会社への移行の登記は設立登記と解散登記である点に注意
特例有限会社の商号変更による通常の株式会社への移行は、設立登記と解散登記を行うこととなるため、登記の構造としての留意点が存在します。
状況によっては変更の履歴を明示するために、あえて別々に申請することも検討に値します、
状況や目的に応じて、どのような登記を行うのかご検討いただくことが大切です。
ご参考にしていただけますと幸いです。